■言葉の食い違い・日本語英語

仕事がら、ちょっと変わった面白い、でも絶対間違ってる日本語によくであいます。 例えば、新学期には必ず行われる日本語クラス内での自己紹介。毎年、吹き出してしまいそうになるものがあります。今年は、「おまけに」という表現を使ったもので、「私の趣味は読書でおまけにスイミングもします」と言った学生がいました。

日本人が聞くと、読書とスイミングには、何となく「おまけ」の関係が成り立たないことがすぐ分かるのですが、「おまけに」を英語の'In addition to'と入れ替えて使っている間違いの原因も分かります。この他によくある間違いが、学生に「先生、助けて下さい」と懇願されることです。「いったいどうしたんですか!?」と、身構えると「実は宿題の漢字がちょっとわからないんです」などと肩すかしをくら うことです。確かに学生は;
'Can you help me (with my homework)? '
と言ったのです。
 
では、どうしてこんな間違いが起こるのでしょうか。これは、言語間の意味の食い違いに起因しているのです。 例えば、最初の例では、「おまけに」という表現が英語の'In addition to'のように、客観的にある事柄に別の事が付随するという意味を表わすだけではないからです。「おまけに」でつなぐことができる二つの事柄には、善しにつけ悪しきにつけ、話す人のその事柄に対する評価が必要なのです。(森田1995)例えば、「彼は、ハンサムでおまけに頭もいい」というような良い評価、また、「この部屋は、暗くておまけに隙間風が入る 」などという悪い評価があって初めて使えるわけです。ですから 、趣味について話している読書やスイミングは何の評価もなされていないので、「おまけに」は使えないのです。
 
また、次の例にある日本語の「助ける」には、英語の'rescue''save'の意味が含 まれているので、言葉の意味が少し英語の'help'と食い違っています。ここでもその意味の食い違いを学習者が認識していないことから、この変な日本語が生まれたわけです。 まず 日本語学習者が、'help'イコール「助ける、手伝う」と、これらの二つの 語彙をまるで全く同じ意味を持つ対の単語の様にして覚えることに原因があります。 これらの語彙の持つ意味の違いに気付いていないからです。

要するに'help'は日本語では、「助ける」と「手伝う」という微妙に違った二つの意味を持つ語彙になるとい うことです。
その一つ、日本語の「助ける」は、「手伝う」より広い意味を持ってい ます。ですから、「叔父が経営する会社を助ける」と言っても「叔父が経営する会社を手伝う」といっても大方にして同じ意味ととれます。ところが、「溺れそうに なっているところを危うく手伝ってもらった」とは、言えません。このように、生命の危険が関わると「助ける」が選択され、一般に私達は、こちらの言葉の方が大きな問題に直面したときに使われると認識しています。だから、学生に「宿題の漢字が・・・」と言われて「なんだ、宿題のことぐらいで」と、拍子抜けしてしまうのです。
 
 
 ■語彙の持つ意味構造を探ってみましょう・・・

このような一つ一つの語彙の持つ意味構造の違いが落とし穴となって間違いをおかすのは、なにも日本語を学んでいる学生だけではありません。英語圏に来て間もない日 本人も同じような間違いをよくしているのを見かけます。例えば、現地の人のお宅に 招待されそこで 「トイレを貸してもらえませんか。」と言いたくて、'Can I borrow your toilet?' と言ってしまう。日本語の「貸し借り」に対応する英語の単語を'borrow''lend'と覚え込み、これらの単語が、どのような条件のもとに使えるかという ことが認識できていないものです。

英語の'borrow''lend'という語彙は、「貸し借り」 という行為によってもの(貸すもの/借りるもの)の動きがあるか、また、これらの行為に金銭の授受が関わるかが重要な判断となるわけです。この二つの語彙につい ては、金銭の授受がなく、ものの移動があるときに使われます。要するに「移動可能 なものをただで貸したり借りたりする。」時に使われるのです。ですから'borrow'を 使ってトイレを貸してほしいと頼むと、「まさか、どうやってトイレを?」と不思議に思われるわけです。日本語では、お金やものの動きに関わりなく使える「貸し借り 」の動詞ですが、英語には、このよう細かい条件があり意味の食い違いが見られるわけです。ちなみに、「トイレを貸してもらいたい」というような場合、'use' を使えば日本語の文と同じ意味になります。
 
この他に日本人学生がよく間違うのが、「ご住所をおしえていただけませんか。」と 丁寧に聞くつもりで 'Can you teach me your address?''teach'(教える)を使ってしまうことです。ここにも英語の'teach' と日本語の「教える」の間に意味の食 い違いがあります。日本語の「教える」には、「学問や技術を身に付けさせる」とい う意味と単に「自分の知っている情報を他人に知らせる」という意味があります。学生は当然、後者の意味を使っているわけですが、あいにく英語の'teach' には、前者の意味だけしかなく、このような文では使えないことがわかります。このような場合には、'tell' を使うのが正しい選択です。
 
このように、日常生活に使われるような基本的な語彙にも言語間の意味の食い違いがたくさん見られます。そしてこれらは、上の例にあるように外国語学習者にとって大 きな落とし穴になることがよくあります。新しい語彙を学ぶ際、単語帳とにらめっこ して覚える前に、その語彙の持つ本質的な意味を探ってみるのも単語を正しく身につけるよい方法ではないでしょうか?

注: 森田良行 「日本語の視点 ことばを創る日本人の発想」
 
[真理子先生の言葉教室 2 ]